素という言葉、文字を意識するようになったのは、1999年より良品計画、つまり無印良品と仕事をするようになってからである。2008年まで9年間いろいろなプロジェクトに関わらせていただいたが、プロジェクトを重ねることに、この“素”の存在が大きくなっていった。
無印良品の代表的なコピーの一つである“愛は飾らない”という飾らない姿勢は、まさしく“素”を重んじることであると思う。コンセプトの1つである“素材の選択”。そして、無印良品と言えば、もちろんシンプル。シンプル=簡素。というように、どれも素という言葉につながっていく。このような環境で働き続けることができたお陰で、素というものを意識する姿勢が、ビジネスにおいてのみならず、人生においても、どれだけ重要なのかを知ることができ、少しずつ身に付けることもできてきていると思う。
人においても、モノゴトと同様に、やはり素を理解することが大切である。その人の素顔や素質、素性など。そうすることで、その人の特長、つまり真の美しさが見えてくる。そこを正しく把握した上で、各種プロジェクトのメンバーを編成し、進めていければ、そうできない時よりも、成果が大きくなる可能性は高まる。それぞれの特長を最大限活かせるのだから当たり前である。だからこそ、素の美しさを見極めることが重要なのである。
人やモノゴトの素、すなわち素(もと)となる、本質的な部分としっかり向き合い、あらゆる角度から、異なる視点で、異なるコンディションの中で、じっくりと観察していくことで、段々と素の美しさを感じとれるようになる。内面から湧き出てくる、深層的ななんとも味わい深く人を惹きつける美しさ。
その美しさを見つけ出すことは容易ではないかもしれないけれど、新たな素の魅力に気づいた時の嬉しさは格別なものである。その気づきが社会貢献につながると信じているから。
だから素の美しさの探求は止められない。童心を忘れずに、好奇心旺盛に素の美しさを探求する旅(人生)はまだまだ続きます。田中一光さんの「簡素が豪華に引け目を感じることなく、その簡素な力に秘めた知性なり感性なりがむしろ誇りに思える、そういう価値体系をもっと世界に発信できれば、もっと少ない資源で美意識や豊かさを謳歌できる」というお言葉と共に。